2006/12/14

A December Night

「今夜、流れ星見に行こうぜ。ほら、今日12/14は前言ってた双子座流星群の極大日だから。」

学内でコウイチに出会ったマサシは出会い頭にこう切り出した。

「ああ、今日がその日だったか。すまん、今日は夜に用事がはいってるんだ。」

コウイチは申し訳なさそうにそう答えた。おそらく二つ返事でOKがでるだろうとおもっていたマサシには意外な返答であったが、あまり残念という素振りを見せないように言った。

「そっか。まぁ今夜天気悪いかもしれないしな。用事があるなら仕方ないさ。」

たしかに週間天気予報では14日は雪の予報だったが、朝に当日の予報をみるといつのまにか晴れに変わってた。もうちょっと早めに言っておくべきだったかとも思ったが、ギリギリまで晴れるかどうかわからなかったので仕方ないと思いつつ、マサシはそれじゃまた今度、と言い残してその場を後にした。

夜、マサシは一人で車を走らせて行ってみようと決めていた流星観察スポットへ向かった。室蘭から伊達を抜けた先、昭和新山や洞爺湖へと向かう道へ曲がったトンネルの先にその場所はある。カーステレオから流れてくるお気に入りのCDの歌詞の意味を読み砕いているうちにふとこれまでの友人関係のことが頭に浮かんできた。

マサシとコウイチの関係の始まりは約5年前に遡る。

元々マサシには、昔から常になんでも話せる友人が一人いた。高校1年の時は頭もいいが、万引きをして停学を食らったりする悪友だった。たしかにこう書くと悪いやつだが、決してそれだけではない、そう思わせる何かを持っている気がして何でも話すようになっていた。マサシは万引きなどには手を染めたことがなかったので、なおさら彼の言うことが新鮮に聞こえたのかもしれない。

高校2,3年の時は誕生日が1日違いの友人だった。どうやら生まれた病院も同じだったらしいが、そんなことは覚えているわけもない。しかし、気の合う部分は多かった。一度大げんかをして絶交状態になったこともあったが、約1ヶ月後にマサシのほうから「もう、いいだろ」と切り出すと、「そうだな」と相手も応じすぐ元の関係にもどった。

大学に進んだマサシだったが、人見知りだった性格もあり、なかなかそういう友人を見つけることができなかった。なによりも、100人もいる学科ではそういう友人を見つけることができないだろうと感じていた。そんな矢先に声をかけてくれた友人たちの中にコウイチがいた。最初の印象は特に残っていないが、いつのまにかよく遊びよく話すようになった。なにより自分と同じような部分が多い気がしていた。

見つかったな、と思った。大学3年になったばかりの頃だった。

冬の空は空気が澄んでいて星がよく見える。目的地に着いたマサシは車から降りるとまわりを見渡した。予想通りの真っ暗な駐車場であり、星を見るには絶好の条件だった。

しかし、12月の北海道の田舎は本当に寒い。なぜ一人でわざわざこんなところまで星を見に来たのだろう、とマサシは我に返った。別に流星に願いを3回唱えたいからではないし、別にそんな迷信を信じているわけでもない。そもそも、流星が一瞬ですぐ消えてしまうことを考えれば願い事を3回も唱えるのは無理なことはよくわかっている。せいぜい大学の友人が言っていた「カネ、カネ、カネ」ぐらいが限界だろう。もし流星を見に来たことに理由があるとすれば、ただなんとなく車で走りたかっただけなのだ。

そもそも、流星群といえども常時星が降るわけでもない。今回の1時間に50個というペースはかなり多い方であるが、それでも72秒に1個、つまり1分に1個も降らないのである。12月の寒空のもとでは外に出ていられるのは20分が限度だ。マサシは車に寄りかかり、いつ流星が降ってくるかわからない空を見上げながらさっきの考え事の続きをはじめた。

マサシは自分の置かれている環境が変わるたびに過去の友人関係がばっさりと無くなっていることに気付いた。ケータイなど普及していなかった小学、中学時代の友人関係はもちろん高校時代の友人関係もいまは無いに等しい。

20世紀ならしかたなかったかもしれないが、21世紀はケータイやインターネットの普及した時代だ。今なら高校生や中学生でも過去の友人関係を維持したままでいられるのかも知れない、そう考えるともう少し時代の進化が早ければ惜しい友人関係を失ってしまっていなかったのかもしれない。そして、3ヶ月後には大学卒業を控えているマサシ達には、また新たな環境の変化がくることがわかっていた。

「できるものなら、大学時代の友人関係は切れてほしくないなぁ…」

そう思ったとき、ひときわ眩しい流星が永く空を駆け抜けていった。

※この話はフィクションであり、登場人物や内容などは実在の人物とは関係がありません。

そんなわけで、みなさんも今夜は夜空を見上げてみてはいかがでしょうか。

うされもん @acidlemonについて

|'-')/ acidlemonです。鎌倉市在住で、鎌倉で働く普通のITエンジニアです。

30年弱住んだ北海道を離れ、鎌倉でまったりぽわぽわしています。

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